茶会の作法とマナー:茶道の世界を体験するための基本ガイド(初級編)
今回は初めて「茶会」に招かれた方に向けて、茶会の作法と基本マナーについてお教えします。
茶会では初心者の方にも優しく教えてくれますが、茶会をより楽しむために最低限の作法を知っておきましょう。
茶会では、茶室において、大勢の客がその茶を楽しむという形式が一般的です。
堅苦しく考える必要は全くありませんが、
茶会には独自の作法やマナーがあるので、あなたが茶会に招かれた際には、茶道の精神を理解し、茶会の作法やマナーに留意しましょう。
【基礎知識】そもそも茶会とは?
茶会とは主催者である亭主(席主)が、招待客をもてなす日本の伝統的な行事です。茶会には色々なスタイルがあります。簡単に分類すると、以下の3つに分けることができます。
- 茶事(少人数の招待客に対して料理までも振る舞うスタイル)
- 茶会(多くの招待客に対して和菓子とお茶のみを振る舞う)
- 大寄せの茶会(大人数の招待客に対して和菓子とお茶のみを振る舞う)
ここでは主に「茶会」をイメージしてお話を進めていこうと思います。
茶会においては、その茶会独自のテーマが設けられており、亭主は自ら設定したそのテーマに合わせて沢山の「茶道具」や「掛け軸」を用意し、茶室に飾る「茶花」、そして「和菓子」などを用意します。
亭主がどのようなテーマを設定したのか、なぜそのテーマを設定したのか、そのテーマに合わせてどのように茶室がコーディネートされているか。
茶会では亭主が詳しく教えてくれるので、茶会の趣向を味わうこととなります。
【事前準備】茶会への持ち物・服装・髪型
茶会へ持参するもの
初めて茶会に招待された方の場合でも、茶会に持参しなくてはいけないものがあります。
- 白い靴下
- 黒文字(くろもじ)
- 懐紙(かいし)
- 扇子(せんす)
- 帛紗(ふくさ)ばさみor 数寄屋袋(すきやぶくろ)
①白い靴下
茶道では茶室に入るときは「白い」靴下か足袋を着用します。茶室を清潔に保つために、履いている靴下とは別に、もう一つ白い靴下か足袋を持っていきましょう。
茶室に入る前に身支度を整える場所があるはずなので、その場所で素早く持参した白い靴下か足袋を履き直してください。
②黒文字(くろもじ)
黒文字とは和菓子を食べるときに使う菓子楊枝(ようじ)のことを言います。茶会の亭主が用意してくれていることもありますが、自分でも準備しておきましょう。
③懐紙(かいし)
懐紙とは和紙を二つ折りにした束のことを言います。懐紙は男性用と女性用とで大きさが異なります。茶席では懐紙の上に和菓子を乗せて食べますし、黒文字を清めたり、口や指先の汚れを拭き取るときにも使用します。
④扇子(せんす)
扇子は茶室で正座して挨拶をするときなどに使います。扇子も男性用と女性用とで大きさが異なります。
⑤帛紗挟(ふくさばさみ)or 数寄屋袋(すきやぶくろ)
上記の②〜④の道具を収納する茶道用の小さなポーチのことを言います。小さめのサイズのものが「帛紗挟」であり、大きめのものが「数寄屋袋」と言います。
茶会当日の服装・髪型
茶会における正式な服装は和装(着物、袴)となりますが、清潔感のあるフォーマルな服装であれば問題ありません。
男性の場合は、
- 清潔感のある髪型
- スーツ、ネクタイ
女性の場合は、
- 清潔感のある髪型(髪が長い女性は結んでおく)
- 白いブラウスなど派手でないもの
- ワンピース、長い丈のスカート
- マニュキュアは落としておく
上記のようなことに気を付けて、当日の服装を決めておきましょう。
その他にも、参加者の方の迷惑になるので香水はつけないことが基本ですし、茶道具を傷つけないように爪を切っておくこと、腕時計と指は外しておくことが基本となります。
せっかく茶会に参加するのですから、着物を着て参加して見ることもお勧めします。
【茶会当日の作法】受付→待合
到着後:茶室に入る準備(受付、荷物預け、身支度)
茶会当日は「遅刻厳禁」です。茶道では早め早めの行動が尊ばれているので、茶会当日は開始時間の30分前には茶席のある場所に到着するように行動しましょう。
茶会の開催場所に到着したら、まず最初にすることは、受付を済ませます。
- 名前の記帳
- 茶券または会費のお納め
- 荷物預け(自分で空室に置くスタイルもある)
- 身支度の整え
上記のことを素早く済ませて、茶席に入る準備をしましょう。
荷物を預ける際には、手荷物やコートは風呂敷に包んで一つにまとめておきましょう。貴重品は無くならないように気を付けてください。携帯電話は電源を切っておきましょう。
身支度を整える際には、持参した白い靴下か白い足袋に素早く履き替えましょう。腕時計や指輪などは外して、茶席で必要となるもの(黒文字、懐紙など)を帛紗挟などにまとめて入れておきましょう。また、黒文字は懐紙の中に挟んでおきましょう。
待合(まちあい)での作法
待合とは、受付・荷物預・身支度を済ませた後、茶室に入るまでに待っている場所です。茶会は待合からすでに始まっているものとして、姿勢を正しましょう。
待合では同じ茶席でご一緒する他の招待客がいるはずですから、「本日はお相伴(おしょうばん)いたします」と一声かけてください。
待合では座り順の決まりはないので、係の人の指示に従って座るようにしてください。
待合では今回の茶会の趣向がどのようなものか、待合の掛け物を拝見しながら想像して時を過ごします。
掛け物は「床の間」に掲げてあるので、正座をしたら、床の間と自分の間に扇子を置いて一礼してから掛け物を拝見するようにしてください。
床には茶会(本席)で使う「会記」や「箱書き」が置いていることもあります。
「会記」とは、本日の茶会で使用する茶道具の一覧表です。また「箱書き」とは本日の茶会で使用する茶道具入れの箱であり、作者や銘が記載されています。
【茶会席入りの作法】席順決め→席に座る
席入りの作法
本席には、気持ちを新たにして席に入りしましょう。茶会の席入りには作法があるので、頭に入れておきましょう。
茶室入口の敷居の前で正座して一礼する(膝前に扇子を置いて一礼)
扇子を茶室の中に入れてから、そのままにじって茶席に入る
茶席が広い場合は、立ち上がり歩いて進む
基本1人づつ拝見ですが、人数により複数同時に拝見します
点前座(てまえざ)に置いてある茶道具を拝見する
茶室では、畳の縁を踏まないように気を付けましょう。畳の縁は跨ぐように意識してください。
席順決め
茶席では、畳一畳に2〜3名が座ることが一般的であり、薄茶席では以下のような順番で席順が決まっています。
正客:最初の席に座る客(年長者や熟練者)
次客:二番目の席に座る客
三客:三番目の席に座る客
・
・
末客:最後の席に座る客
正客とは、茶会における最上位のお客様であり、客の代表として亭主とお話しをする重要な役割を担います。
末客とは、茶会の流れ全般を理解して、他のお客様や亭主へ配慮した動きが求められる重要な役割を担います。
茶席では、客人たちは謙遜してお互いに正客を譲り合うことが通常ですが、初心者の方は「初心者である」ことをキチンとお伝えして、正客や末客は遠慮すると良いでしょう。
席に座り正座
自分が座る席が決まったら、正座をして茶会が始まるまで待ちましょう。茶席における「正座の仕方」にはルールがあるので確認しておいて下さい。
茶席での正座の仕方は、茶道の基本的な礼儀や作法の一部として重要です。
<正座の仕方>
- 畳の縁から16目に膝が来るように正座する
- 扇子と持ち物(懐紙など)は自分の背後に置く
- 扇子の要(かなめ)は床の間の逆にする(扇子の要とは扇子を開く際に根本でとめている部分)
- 男性は膝を少し開き、女性は膝を開かずに正座する
「畳の縁から16目」を、茶席の場で数えるのはスマートでないですから、事前に自分の手で測って準備しておきましょう。
茶会の前に、畳に自分の手を広げておきましょう。自分の手が畳の目の何個分か測っておくと、当日茶会の場でスムーズに16目を測ることができます。
なお、正座の仕方は、茶道の流派によって微妙に異なります。自分が出席する正座の仕方についてはよく確認しておきましょう(別のページでご案内します)
【茶会始まりの作法】挨拶→点前→席主と正客の会話
正客からの挨拶
お客様が皆着席して、茶室の雰囲気が落ち着いたら、いよいよ茶会が始まります。
茶会では、まず「正客」を務める人が、その他の客人に対して挨拶をするところから始まります。
正客から「本日は正客を務めさせていただきます。本日は行き届かないことがあるかと存じますが、どうか宜しくお願いします」という挨拶を受けたら、
扇子を自分の膝前に置いて、「こちらこそ宜しくお願いします」と一礼して下さい。
点前(てまえ)の始まり
正客からの挨拶も終わると、いよいよ点前が始まります。
茶室が落ち着いたことを見計らって、点前をする人が襖を開けて入ってきます。点前をする人が礼をしたら、客も畳に手をついて礼をします。
点前が始まったら、黙って点前の所作を拝見しましょう。
亭主(席主)からの挨拶
点前が始まり、しばらくすると亭主(席主)が茶室に入ってきます。
亭主が挨拶をしたら、客も畳に手をついて礼をします。
亭主と正客の会話の始まり
亭主が茶席に入ってきたら、正客と亭主との間で会話が始まります。
このとき会話して良いのは正客だけなので、正客以外のお客さんは亭主と正客の会話を聞いて楽しみましょう。
正客と亭主は茶会にまつわる様々な会話を繰り広げます。
<正客と亭主の会話例>
- 茶会の趣向について
- 掛け軸について
- 花・花入・香合について
- 茶道具について
【茶菓子を食べる作法】
菓子器から懐紙にお茶菓子を移す
正客と亭主との会話が始まってから、しばらくすると、茶席にお茶菓子が運ばれてきます。
この茶菓子も茶会の趣向に沿ったものになっているはずなので、どのような趣向で作られたお茶菓子なのか想像して見るといいでしょう。
お茶菓子には「主菓子」と「干菓子」の2種類あります。
「主菓子」は、主に餡子を使った生菓子でであり、「干菓子」は、乾いたお菓子であり通常数種類のお菓子が運ばれてきます。
お運びさんが菓子器を持ってきてくれたら、正客の動きに注意を払って下さい。正客がお茶菓子をとり始めたことを確認してから自分もお茶菓子を自分の懐紙に移しましょう。
干菓子の場合お茶菓子を直接手で取って懐紙に移せば良いのですが、主菓子の場合菓子箸を使って懐紙に移します。
菓子器が自分のところに回ってきたら、自分よりも後の人に対して「お先に」と一声かけて礼をすることが礼儀です。
お茶菓子を食べる
お茶菓子は、お茶を飲む前にいただくものです。
頃合いを見計らって、 亭主から「お菓子をどうぞ」とお声がけがあるので、「頂戴いたします」と言って一礼してからお茶菓子を食べ始めて下さい。
お茶菓子は懐紙に乗せていただきます。
<干菓子の食べ方>
干菓子は懐紙ごと手で持って、手で直接一口サイズに割ってから食べましょう。
<主菓子の食べ方>
主菓子は懐紙ごと手で持って、黒文字を使って一口サイズに切り分けながら食べましょう。
お茶菓子を食べ終えたら、お茶菓子を乗せていた使用済みの懐紙を一枚取って、小さく畳んでしまい、持ち帰ってから処分しましょう。
菓子器をお運びさんに返す
お運びさんが取りにきたら、菓子器を返却します。
菓子器を返却するときにも作法があるので覚えておきましょう
<菓子器の返却方法>
- お運びさんから見て菓子器が正面になるように方向転換する
(菓子器を90度づつ右に回す) - お運びさんに「お下げします」と一礼されたら、続いて一礼する
【お茶をいただく作法】
お茶が運ばれてくるまで
お茶菓子を食べ終えたら、いよいよお茶が運ばれてきます。お茶には薄茶と濃茶の2種類がありますが、ここでは薄茶の作法をお話しします。
お点前をしている人は、正客がお菓子を食べ終えた頃に、お運びさんに薄茶が入った茶碗を渡し、お運びさんが茶碗を正客に運んできます。
正客は「お点前頂戴します」と一礼してから薄茶をいただきます。
正客に茶碗が渡ると、その他のお客様には水屋で点てた薄茶が順番に運ばれてくるので待っていましょう。
お点前をする人は1人で幾つもお茶を点てることができないので、正客または次客、三客より後の順番の人に対しては、水屋で点てた薄茶が順番に運ばれてきます(これを「点て出し」と言います)。
隣席の人への挨拶→お茶をいただく
お運びさんが、点て出しの薄茶を運んできてくれた後の作法についてお話しします。
<隣席の人への挨拶作法>
- 茶碗が目の前に置かれたら、お運びさんに一礼する
- 茶碗を畳の縁内に移動する
- 茶碗を自分より前の人との間に移動して、挨拶する
「お相伴します」 - 次に、茶碗を自分より後の人との間に移動して、挨拶する
「お先に頂戴します」
隣席の人への挨拶が終わったら、いよいよお茶をいただく作法に移ります。
<お茶をいただく作法>
- 茶碗を自分の膝前に置いて、一礼します。
「お点前頂戴します」 - 茶碗を右手で取り、左の掌に乗せて、右手を添える
- 右手で茶碗を手前に2回回す
- お茶をいただき、最後は吸い切る(スッと音を出す)
- 飲み口を指先で拭う
- 右手で茶碗を先程と反対方向に2回回す
- 茶碗を畳の縁外に置く
【茶碗を拝見する作法】
お茶を飲み終えたら、席主が出してくれた茶碗をよく拝見しましょう。
席主が今回の茶席のために用意してくれた茶碗です。茶碗の中、側面、底までよく観察してみましょう。
<茶碗を拝見する作法>
- まず最初に畳の縁外に置いた茶碗全体をよく眺める。
- 次に身体を前傾し、肘を膝に乗せて両手で茶碗を手に取ってよく眺める
- 拝見が終わったら、茶碗を2度回してお運びさんからみて正面に向くようにする
- 茶碗を畳の縁外に置く
お運びさんが茶碗を取りに来ます。お運びさんに一礼することも忘れないようにしましょう。
また茶碗は、席主が大事にしているものですから、慎重に取り扱いましょう。
【席主と正客の会話】
正客は茶碗の拝見まで終わると、席主と正客の会話が始まります。会話の内容を聞いて楽しみましょう。
以下において席主と正客の会話の流れを挙げておきます。
<正客>
〜席主に対して〜
「たいへんおいしゅうございました」
「お菓子のご製とご銘は?」
<席主>
〜正客に対して〜
「もう一服いかがですか」
<正客>
〜連客に対して〜
「皆さん、充分にいただきましたか」
〜席主に対して〜
「十分いただきましたので、どうぞお仕舞いください」
<席主>
「それではお仕舞いさせていただきます」
【茶会終わりの作法】点前の終わり→席主の挨拶
点前の終わり
点前が終わったら、今回の茶会は終了です。
点前をしてくれた方が退室するときには、客側も感謝の気持ちを込めて一礼をしましょう。
<茶会終わりの作法>
- 点前の方は一礼して茶室から退出する
- 客一同も一礼する
席主の挨拶
点前の方が退出すると、次は席主がお客様に終わりの挨拶をしてくれます。このときも席主と会話をするのは正客の方だけです。
そして、
席主の挨拶が終わると、最後に正客が連客に向けて挨拶をしてくれます。このとき連客は正客に向けて「ありがとうございました」と言ってから一礼すると良いでしょう。
また、
隣席の方に対しても「本日はお相伴ありがとうございました」と言ってから席を立つと良いでしょう。
【茶会後の作法】茶道具の拝見→退席
茶会によっては、席主が「茶道具をごゆっくりとご覧ください」と行ってくれる場合があります。
折角の機会ですから、茶道具を直に拝見して見ると良いでしょう。
主茶碗の拝見
主茶碗は「正客」に出される茶碗のことであり、今回の茶席の趣向に沿った茶碗です。
正客以外の人も、是非、茶碗を手に取って拝見しておくと良いでしょう。
棗(なつめ)とお茶杓(ちゃしゃく)の拝見
棗とお茶杓を拝見する際も、茶碗を拝見する要領で、丁寧に拝見するようにしましょう。
棗の中には抹茶が入っています。
「抹茶の盛り方」の美しさも茶道の見どころなので、抹茶の盛りが崩れないように棗を取り扱って下さい。
茶会では、正客が席主に対して「主茶碗や棗、お茶杓を拝見に回して良いですか?」と尋ねてくれる場合もあります。
その場合は、茶席で拝見できます。
床の間、点前座の拝見
退席する際も、もう一度、床の間と点前座を拝見しておきましょう。
茶席から退席する
茶席から退席するときには、茶席入りのときと同様の要領で行って下さい。
座って退出するときは、扇子を置いて、にじって退出します。